ジョージア、アラバマ、テネシー漫遊記⑧ 「9月18日(月)」
- bunkeiedison
- 2024年7月6日
- 読了時間: 9分
更新日:2024年7月7日

メンフィスへ発った日と同じように、例によって7時前にジョージアの友人宅を出発。友人はマイカーで会社へ、おれは真っ赤なヒュンダイを運転してナッシュビルへ向かう。
ここからあこがれの音楽の都へは距離にしてだいたい420km。大阪から東京へ行くよりかはちょっとだけ近い。アメリカの道路事情じゃお昼過ぎには十分に到着する。今日の最終目的地はナッシュビルの中心地から徒歩圏内のホテルではあるが、直行するにはのんびりドライブしたって時間が早いので、お目当ての博物館のうち1軒くらい立ち寄ってからチェックインしようかな、というのが大まかなプラン。
この旅での車移動にまつわるいろいろは何日か前のメンフィス編の旅行記でけっこう詳しく書いたけど、週末をジョージアで過ごしたことで、友達からさらにもうひとつロングドライブに必須のアドバイスを得た。
それが、このヒュンダイのハンドルにも備わっとる「クルーズコントロール」という機能。今どきじゃ日本でも搭載しとる車なんてザラにあるから「今さらそこ…?」って思われるかもしれんけど、恥ずかしながらおれはこの旅で知るまで完全なるオートクルーズ童貞やった。それも予備知識ゼロなタイプのピュアボーイ。しょうがないじゃないか、おれの愛車にはそんなハイテクなもん付いてないんだもの。
要するに、フリーウェイとかで長距離を長時間一定の速度で走るような場合、設定したい時速で走っとるタイミングでハンドルのボタンを押すことで、そのスピードをアクセルペダルを踏むことなく保持できるっていうお助けアイテムなのだ。もちろんキャンセル操作は簡単で、何かの拍子でブレーキを踏んだりしてもその設定は解除される。
友達の運転する車の助手席に乗っとるときに彼がそれを駆使してるのを見て、「そういやそれ、おれのレンタカーにも付いとるけどさ、よう分からんかったから今まで使ってへんねん」って言ったら、わりと驚かれてしまった。「メンフィスの往復も?絶対使ったほうがラクやで」って。
これがねぇ、使ってみりゃ何のことはない、マジで簡単で快適なんよ。足のさじ加減でスピードを調整するっていう作業が減るのは、思ってたよりずっと運転を楽にする。というかさ、周りで走っとる車、渋滞のとき以外はほぼ全車これ使っとったんちゃうんか、旧車とか除いて。バカでかいトラックとかも多いのに、みんなどことなく整然と走行できとる印象があったのは、ゆとりのある道路サイズとかそういう問題だけじゃなかったっぽい。
この機能を積極的に活用できるようになったことと、友人が「宿で飲むといいよ」って家に残ってたビールをいっぱい持たせてくれたこと。これらによってこのナッシュビル編の行程は前半のメンフィス道中と比べて、ずいぶん余裕のあるものになった。ま、メンフィスへ向かったときはおれ、替えのパンツすらなかったもんね。雲泥の差とはこのことや。
てなわけで13時半頃にはスムーズにナッシュビルへ到着、トラブルはとりあえず駐車しておくためのパーキングを探すのにちょっと手間取ったくらいかな。こっちでは支払いに携帯のショートメールとかを使うシステムの駐車場も多くてさ、結局出入り口が有人のでっかい立駐に落ち着いた。
宿へのチェックインまでに訪ねる博物館は、国立アフリカ系アメリカ人音楽博物館(NMAAM)に決めた。メンフィスで黒人音楽にたくさんふれた流れとして旅のグラデーション的にちょうど良いかな、っていうのがチョイスの決め手。ナッシュビルと言えばカントリー・ミュージックって感じもするが、そっちは明日丸一日かけてどっぷり浸かることにしましょう。
ここは2年前にオープンしたばかりのきれいな博物館。メンフィスではレーベルやジャンルや土地に絞った展示施設を巡ってきたから、黒人音楽っていう大きなくくりで一発ドン、と構えたミュージアムの展示は、見せ方やレイアウトに凝った造りも手伝って、壮大に感じた。
テーマを絞ってないからこそ実物のコレクションとしては比較的少なめやった気がするけど、おれがこのミュージアムでものすごく感銘を受けたのは、「黒人音楽をわからせる」っていうコンセプトに最高にマッチした仕掛けが用意されていたことやった。
その仕掛けの肝となるのが、展示の各所に設置されとるタッチパネルを備えたモニター。博物館にはよくあるよね、タッチしたら関連映像やら補足情報を映してくれるやつ。けど、ここのはただそれだけの代物じゃなかったんだよ。
モニターでは、今自分が見とるフロアの時代やテーマに即した黒人音楽の、言わば「ツリー」が見れるようになっとる。例えばモニター上であるひとりのブルースマンの紹介を読んだとしたら、その人の音楽スタイルのルーツになった人物や、逆にその人が影響を与えた後進の人物が、本人を中心として円上にパーって表示されるんよ。つまりだな、同じひとつの画面上に、黒人のフォーク音楽っていう根っこを介して、ふだんおれが遠く戦前の時代に夢馳せながら音源を聴いとるレッドベリーから、たまにYouTubeも更新しとるバリバリ現代のドム・フレモンズまで、ひと繋ぎの系図として顔を揃えて出てくるってこと。
このことは、十代のはじめに音楽に出会ってから、ネットの情報や近所の中古CD屋で手探りで自分の心躍る音楽にその都度その都度でハチ合わせしてきたおれにとって、本当に感動する体験やった。よく点と点が線になるって表現があるけど、これはさらに踏み込んで線と線が面になるって言うか、何ならもっとドラマチックに言っちゃうと、おれが手が届く順にランダム性を持って見つけてきたキラキラの星たちが、黒人音楽っていうひとつのでっかい宇宙を形成しとったんや!、みたいな感動を叩きつられたような衝撃やったんよ。宇宙系SF映画のクライマックスのような。
そんでしかもさ、モニターにはヘッドホンまで備わっとるから、画面に提示されたツリーの中で気になるアーティストを見つけたら、その場で即座にその人の曲を聴けるんよ。いいや、実はその場でだけじゃない。入場のときにオプションで付けてもらったリストバンドをモニターに付属の装置に読み込ませることで、なんとおれがその日に聴いた曲をプレイリストにして、お土産に持って帰れんねん!スゴないですか?
このサービスのヤバさは、「なんか雑誌で見たことある名前やな、買ってみよか…イケるやつかな?」みたいにお小遣い握ってハラハラワクワクしながらCDをジャケ買いするような少年時代を経験した音楽好きほど、めちゃめちゃに刺さるぜ。実際ツリーの画面が出てきた瞬間、おれちょっと泣けたよ。やっぱりナッシュビルは音楽の地やったんや。この旅で何度目のことかもうわからんけど、またここでもおれは日本からはるばる来て良かったと思った。
という仕掛けにも感動しながらアフリカの音楽から現代のヒップホップ文化まで網羅したこの博物館を嬉しがりながら堪能した。もちろんおれがメンフィスで見てきた音楽やって、この黒人音楽の雄大な流れの中にちゃーんと飾られとった。やっぱり、音楽ってひとつのでっかいストーリーなんやなぁ。出会ったり好きになったりする順番が違うだけで、どっから飛び込んでも繋がっとるってことがよくわかった。ほんまにこのタイミングでこの博物館を選んだのは冴えてたよ。
ミュージアムを出たらもう16時前になっとったので、ナッシュビルのハードロックカフェでご飯をいただくことにする。頼んだのはキャットフィッシュフライ、クソでかいのが3枚出てきた。例によって腹パンパン、けど美味い。ハードロックカフェのお土産ショップで小物を購入。店内に独特のニオイがしとって、アメリカの別の州から来たらしきマダムが店員の兄ちゃんに「テネシーってマリファナOKだったかしら?」みたいに尋ねとった。
駐車場へ戻ってホテルへチェックイン。ナッシュビルの中心街から歩ける距離で選んだけど、ここはメンフィスでの宿よりもモーテル感がある雰囲気。6年前ニューオーリンズに行ったとき、旅の前半に泊まったホテルと雰囲気がよく似てる。
ナマズのフライでお腹は満たされたまんま、ロングドライブのちょっとした疲労感をアテに友人支給のビールでも飲もか、と思ったら栓抜きが無ぇじゃん。フロントに貸してもらえるか聞くなんて選択肢は恥ずかしがり屋のおれには出てこない。ちょうど良い、お土産がてら栓抜きも買っちゃおうと、夜のブロードウェイへ散策を決行することに。
すんげー喧騒やったなぁ。メンフィスのビールストリートと違って夜もホコ天になってないから、お昼に通ったとき以上に歩行者が密集するっていうのもあるが、所狭しと立ち並んどる店それぞれで演奏しとるバンドのほとんどがロックバンドなのがデカいよな。イーグルスをやってる店もあればハードロックや流行りの音楽で攻めてる店もあり、意外と本場のカントリー・ミュージックで飲み明かそう、みたいなノリが街全体を占めとるわけでは無さそう。
けど、これがホンキートンクのあるべき街並みかもしれんなぁ、と歩きながらに思う。もともとこのブロードウェイの喧騒の起こりは、「隣の店よりもっと派手に、にぎやかに!」と飲み屋同士で競い合うように音楽を響かせてきたところから来とるはずなんよな。その当時にこの土地でいちばん派手でにぎやかな音楽がたまたまカントリーやって、その人気と需要との相乗効果でこの繁華街は栄えてきたんやと思う。その「派手に、にぎやかに、客が集まる音楽を!」っていうスピリットを現代のブロードウェイが持ち続けとるんやったら、演奏されるジャンルがカントリーの枠から飛び出していくのも自然な気がするんよな。ニューオーリンズの夜の街ではディキシー・ジャズ、メンフィスではソウルやブルースみたいに土地の音楽が目立って演奏されとった印象があったけど、そことはまた一味違う背景や思惑でナッシュビルの夜は音楽を鳴らしとるってことかな。やっぱり、現地の夜を散歩するのは発見があって面白い。
生演奏はゆったり聴けそうにないし、陽な雰囲気の店内に単独で入っていけるテンションでもないので、明日の昼頃にどっかしらでチャンスがあれば、ちょうど良い具合のお店に出会えるとええかな。そう思いつつ栓抜き購入のタスクは成功。
ホテルに戻ってビールにありつき、メンフィスぶりのほぼ気絶就寝。ドライブに博物館に、体も心も揺さぶられた一日やったなぁ。
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