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ジョージア、アラバマ、テネシー漫遊記⑫ 「9月22日(金)〜9月24日(日)」

  • 執筆者の写真: bunkeiedison
    bunkeiedison
  • 2024年9月2日
  • 読了時間: 7分

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 引き続き、ここは真夜中のデトロイト・メトロポリタン・ウェイン・カウンティ空港。ベンチでまどろんでいたら金曜日の朝4時になり、チェックインが出来るようになって再度スーツケースを預け直す。機械からタグが出てきた。おれの名前書いてあるね、ヨシ。指差呼称確認。

 そのままスムーズに保安区域内へ進む…とは行かず、まずは検査場に入るための行列に並ぶ。デルタのスマート入場みたいなシステムが使える旅客のためにはどうやら別の入場ルートがあるみたいやったけど、そういう便利なもんが使えないおれのようなソワソワした外国人旅行者たちが、人気が多くなるにつれてスタンションで区切られたスペースに列を成していった。


 何やかんやで検査場を過ぎてターミナルの保安区域内へ。デトロイト空港のコンコースはバカみたいに長くって、建物の中に旅客が移動するための「エクスプレストラム」とかいう、ハリー・ポッターの呪文みたいな名前の無人の電車が走っとる。

 ファストフード店のチックフィレイが朝5時から開いとるようなので、チキンサンドを食べながら時間つぶそうと向かう。チックフィレイはもともとジョージア発祥のチェーン、これも友達が話に挙げとったなぁ。朝も早いのでガラガラの中、おれ以外では空港設備のスタッフらしき4人組が仲良く朝ごはんをオーダーしとる。


 食事が済んだらまたしても、旅の写真を整理したり、これまでの出来事を思い出しながらメモを書いたりして過ごす。日本に帰ったらしばらくは新しい仕事のスタートにあくせくする日々が続くやろうけど、そういう生活の中でもおれはこの旅で見聞きしたことや思い出を反芻しながら抱きかかえてたい。学校の先生はよく「家に帰るまでが遠足」と言うけど、それとはちょっと違うな、帰ってからもこの旅を終わらせんことはできるはずや。

 眠いからか、ぼんやりした頭が何かと上手いこと言うて思考を締めくくろうとしてきよる。


 出発時刻が近づく前にゲート近くのベンチに拠点を移動して座り直し、東京で相手してくれる大学時代の後輩と連絡を取りつつ10時過ぎの搭乗を待つ。羽田に着くのは土曜の昼やから、降り立ったらまず平和島の温泉にでも浸かりに行こう。風呂を上がったら多すぎる土産話をあてに居酒屋で飲もう。そんで飲み屋の写真はジョージアの友人に送ってあげよう。

 首尾良く時間は流れていき、デトロイト発羽田行きの飛行機に乗り込んで、いざ離陸。あとはグースカ寝てれば日本に着いとる。


 今度アメリカに来れるのはいつになるんやろうね。滞在中、西海岸で暮らしとる大学の後輩からも連絡をもらったりして、そっちらへんは観光しやすそうやなぁとか思ったり。ブルースのあこがれの土地で言うたらシカゴもミシシッピ・デルタも見てみたいし、何ならさっきまでいたデトロイトにもモータウン・レコードなんて超ド級のスポットがあるし。また人生のめぐり合わせで、この国へ足を運べる機会が来るとええなぁ。

 この旅も含めておれが巡礼してきた世界のあこがれの音楽の土地は今んとこニューオーリンズ、リヴァプール、マッスル・ショールズ、メンフィス、ナッシュビル。次はどこになるやろう。薄暗い飛行機の中で映画を観つつ、機内食を食いつつ、眠りつつ、おれはそんなことを考え続ける。映画は「パルプ・フィクション」観たっけな、どうやったっけな。



 土曜日の13時、無事に羽田に着陸。

 暑いなぁ日本は。スーツケースも無事おれと一緒に帰ってきた。往路のゴッタゴタでファスナーのカギがぶっ壊されとったんやけど、いちおう荷物の受取り場にいたデルタのスタッフさんに破損の証明書的なものを書いてもらう。家に帰ってからクレジットカードに付いとる海外旅行保険みたいなので直そうかな、と思っとったが、よりによって海外旅行をしたという証拠になり得る航空券やらの支払いにその保険が効くカードを使わないという謎ムーブをかましてしまったので、条件不成立でたぶん実費かかる気がする。いいよもう別に。スーツケースが中身も伴って今ここにあるだけで奇跡みたいに嬉しいし、不満は無いよ。

 スーツケースから東京で一晩過ごすための荷物と、こっちの友達にひとまず配るのに足るお土産を取り出してリュックに移し替える。スーツケースは空港のヤマト便で一足先に自宅へ発送するのでいったんサヨナラ。こいつにとっても波瀾万丈な旅やったやろうな。この子おれより余計に飛行機乗っとるもん。


 長い長い空の旅が済んだので、お待ちかねの平和島温泉へ向かい身を清めることに。確か去年、レンタカーで軽く東京の海沿いを走ったときにも利用した施設。今回は電車で行くけど、そのぶんやはり日本の暑さを道中で実感する。時差よりも天候差にクラっとするなぁ、風呂入ってリセットしよう。ゆっくりできる休憩処もあったはずやから、そこで後輩との待ち合わせまでは寝とったらええねん。


 …はい、寝過ごしちゃった。寝ころび処で「…ん?」と目覚めたちょうどそのとき、後輩からLINEで待ち合わせの上野に着いたって知らせが来た。申し訳なさはもちろんあるが、仮眠の気持ちよさにウケる。何やってんだか。まぁこれも帰国の安心感から来るものかしら。

 電車で上野へ向かいつつ、さっき浮かんだ安心感について考えたりする。いかにもおのぼりさんみたいなマインドで恥ずかしいけど、やっぱりおれはアメリカを旅しとる間はこう見えてずっと緊張感があったんやと思うよ、あこがれの土地を突き進む高揚感でカバーしとっただけでさ。この東京はもちろん、大阪にも旅する外国人は多い。人見知りやし、こっちの状況次第なとこもあるけど、海外からの旅人が目に見えて困っとるときは、できるだけ優しくしたいと思った。遅刻しとるくせに何をカッコつけて考えとんねん。


 21時半頃、無事に上野で後輩と合流。独りで待たせ過ぎたかな、どうやらわりともうすでに飲んじゃってんじゃんか。想定より開始は遅くなったけど、旅の話と焼き鳥と、行きに免税店でカートンで買った高級煙草を肴にしてペース上げて飲んだ。ええやんええやん。ジョージアの友人にも無事帰国した連絡をする。やっぱり大衆居酒屋を羨ましがっとる様子。


 後輩についてって今日泊まらせてもらう家に一緒に帰る。部屋の奥から一緒に住んどる彼女が出てきた。あれ、今日もいらっしゃるんやっけ!おれが酔ってて聞き忘れたんか、彼が酔ってて言い忘れたんか、まぁええか。ふたりして良い気分で酔っぱらっとったし。おれにとっちゃ初対面の人とのごあいさつにはこの酩酊がちょうど良かった。

 アメリカ土産の荷解きをする。後輩がやっとるバンドのメンバー分にこまごまとしたいろんなスタジオのグッズ、そんで彼自身にはシングル盤のレコードもあげたんやっけね。

 話をしとると、彼女さんも自分の好きなもののためにその現地に赴いたりする趣味のある人やった。横で酔っぱらってへらへらしとる後輩もそうなんやけど、おれは我がの好きなものを生活しながら大事に持ち続けとる人は好きやし、尊敬する。

 あの子引いてなかったかなぁ、初対面の酔っぱらいが喋るうちに勝手にテンション上がってて。けどおれは、まさに好きなものを好きであり続けて良かったなぁってシビれるほど心から思える体験から帰ってきたばっかやったんよ。やから、ことさらに嬉しがってたんやと思うよ。

 …まぁでも、呆れられとったやろなぁ。後輩が用意してくれた布団にも行かず、気づいたらあぐらかいて飲んでたその場で爆睡しちゃっとったもん。何なんだよこいつ。



 明けて日曜日。思いっきりもうお昼。目覚めたらもう彼女さんはとっくに出かけとった。後輩と二人して近所のそば屋さんに行って、そのまま駅へ向かって帰阪する。彼女にくれぐれもよろしく言っといて、と伝えて別れた。

 そうして新幹線に乗り継いでグーグー寝てたら新大阪駅、そっからも何ともフワフワしつつ、懐かしのわが家へ無事帰宅したのは17時くらい。とりあえず慣れ親しんだ布団に飛びついて、また寝る。


 そういえば何と明日は、ずっと前にチケットを買ったクロマニヨンズのライブがなんばHatchであるんやった。音楽を好きになってからずっと、ほとんど毎年観に行っとるバンド。

 ああ、そうか。忘れとったよ。ものすっごい旅行から普段の日常に戻りこそすれ、おれの日常にも、あこがれの音楽はわりといつもあるんだった。

 じゃあ、もうずっと毎日は楽しいじゃないか。


 にしても、まったく良い旅やったよなぁ。明日も夜のライブまでに起きれたらいいや。

 まだ日も落ちてないうちに、ほんの一瞬で寝てしまった。







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