ジョージア、アラバマ、テネシー漫遊記⑩ 「9月20日(水)」
- bunkeiedison
- 2024年8月22日
- 読了時間: 8分

今日がナッシュビルで過ごす3日目にして、最終日。あー、あっという間やな。
昨夜はすっかり早寝をかましたので、早めに起きても元気いっぱい。ここのホテルでの最後の朝食やチェックアウトを済ます前に、8時から9時までの1時間ほど近所を散歩することに。5kmほど歩いたかな。
おれの泊まった宿の目と鼻の先が、音楽スタジオの密集する地区、その名も「ミュージック・ロウ」やと知ったのは昨日のRCAスタジオBの見学ツアーやった。朝も早いのでどこかのスタジオに足を踏み入れることは出来なくても、この地区の佇まいというか、そういう雰囲気はせっかくなので見ておきたかったんよ。
大手ではコロンビア・レコードのスタジオの外観を見れて嬉しかったなぁ。60年代のディランの傑作が録音された土地。「ナッシュビル・スカイライン」はもちろんのこと、「ブロンド・オン・ブロンド」はとくに大好きなアルバム。学生時代、ディランのCDは歌詞を知りたくて日本盤で買うことを自分ルールで決めてたから、歌詞カードの解説文もよく読んだものよ。そういう解説には録音に参加してたミュージシャンの名前も詳しく載っとったんで、ナッシュビルを拠点にした名うてのセッションミュージシャンの存在は、そういうところを出発点に知った。「チャーリー・マッコイって名前、いろんなアルバムでよく見かけるなぁ。ものによってやっとるパートがバラバラやけど別人なんかな」みたいな。マルチプレイヤーやったチャーリーを含め、彼らは全員ひっくるめて「ナッシュビル・Aチーム」って呼ばれて、カントリーに限らずこの土地で録音された数々の名盤を、豊富な経験に裏打ちされたサウンドによって支えてきた。もちろん昨日見たカントリーの殿堂博物館にもAチームのミュージシャンは飾られとった。
マッスル・ショールズのスワンパーズやフェイムギャング、スタックスのメンフィス・ホーンズやMGズ、そんでナッシュビルのAチーム。おれが今まで虜になってきた音源の中にいつだって確実にいるのに、ジャケットのオモテ面にはなかなか名前が出てこないような職人たちの名前を、この旅では当たり前のように各地で見れたなぁ。それが嬉しい。
そんなことも思いながら、小さなスタジオやレコード会社がまるで住宅街みたいに並んで建ってる道を散歩していく。家々の前には、そのレーベルからチャートに入ったりヒットを出したアーティストを称える看板がよく立っとった。「祝インターハイ優勝・○○君」みたいな垂れ幕を出す日本の学校みたいや。そういう掲示はいっぱい写真にも撮ったから、帰国後にそれらを拾い集めてプレイリストでも作ったら面白いかもしれんね、Spotifyとかで。ちょうど一昨日行った黒人音楽の博物館が展示の中で聴いた音楽をプレイリストにして持って帰れるシステムをオプションで用意しとったのを思い出したんよ。すごいな、おれはこの旅を通してリアルタイムで成長している。
旅行もクライマックスに向かっとるからかな、散歩しながらも何となく、この旅の思い出は帰ってからも何とかしてしがみついてたいなぁって考えとった。長年あこがれつづけてた音楽にここ何日間ぶっ通しで対面しまくっとるこの状況、こっちにおる期間だけでは受け止めきれないし、もったいない。
スタジオ群を眺めながらぷらぷら歩いてホテルに帰り着いた。
チェックアウトまでゆっくり時間を使って、ナッシュビルに着いた日に使った立体駐車場でいったん車を停める。この土地で最後の訪問先になるのは、「ミュージシャンの殿堂と博物館」。10年前にナッシュビルの市立講堂の中にリニューアルオープンしたとあって、施設として比較的新しい佇まいがする。ちなみにこの講堂は去年リック・フレアーがラストマッチを闘った場所。プロレスラーって何回も引退試合するよなぁ。
さて、「ミュージシャンの殿堂」なんて名前やとあまりにもその対象が広い気がするけど、どういうコンセプトで設立されたものかと言うと、どうやらこれはジャンルや地域を問わずにアメリカの音楽まるまるの中で、それらを陰ながら支えてきたセッションミュージシャン的存在を中心に殿堂へノミネートしてきた団体のよう。例えば初回2007年の殿堂入りのアーティストを挙げると、モータウン・レコードの録音で活躍したファンク・ブラザーズ、LAのスタジオで縦横無尽にアーティストを支えたレッキング・クルー、メンフィスからはエルヴィスのバンドやったブルー・ムーン・ボーイズとアメリカン・サウンド・スタジオにいたメンフィス・ボーイズ、そんでもちろんナッシュビルのAチーム。翌年にも当たり前のようにスタックスやマッスル・ショールズのセッションバンドが殿堂入りしとるように、そう、この博物館にはおれがこの旅で見まくってきた、「今まで大好きな音源の中で何度も出会ってたはずなのに実物を目にしてこなかったあこがれたち」がついに一堂に会して勢揃いして待っとるんよ。ね、シビれる道順で旅しとるでしょ、おれ。あと、クリエイター側も含めて表彰するっていう観点が近いからなんか知らんけど、グラミー賞に関する展示をしとるコーナーも館内にはあったね。
展示はもう本当に、ここほどセッションミュージシャンにスポットライトが集中する場所は他にないやろうな、って感じのラインナップ。すごい。今まで実際に訪ねてきたメンフィス、マッスル・ショールズ、ナッシュビルはもちろん、この旅では見てないデトロイト、ロサンゼルス、フィラデルフィアも含めたアメリカの音楽の、ふだんはあんまり可視化されん秘密というかミソというか、魔法の全部がそこにはあった。もういちいち書いてくとえげつない量になるからやめとくけどさ、例えばモータウンやったらジェームズ・ジェマーソンの弾いとったプレベとか普通に置いてあったからね。これ1本でおれはいったい何曲のモータウン楽曲で聴いたことがあるんやろう。
LAやデトロイトやシカゴみたいな、いつか将来実際に足を運びたいあこがれの土地のことにも思いを馳せれたし、果てしなく思えた今回の旅を締めくくってまだ検討もつかない次回の旅の夢を見るには最高じゃないか。やっぱり来て良かったなぁって感動しちゃう。
博物館の近くにレコード屋さんもあったので、ナッシュビル編総括りのお土産も兼ねて最後に立ち寄ってみた。「スワギー・レコーズ」なるお店、半地下的なワンフロアで狭いのにいちいち品揃えが良い。さすがナッシュビルって感じ。
奥まった店内のさらに奥まったところに"The Vault"(金庫)って書かれたスペースがあって、その棚にはプレミア価格のお宝レコードが置いてある。はぇ〜って言いながら眺めとったけど、日本のレコード屋さんほどバカ高いのはあんまりないぞ。こういう現地で安く買って高く売るってのはあるんかもしれんが、日本で買うときはやっぱ足元見られとるんかなぁ。まぁこんな高ぇレコードもともと買えんからおれには関係ない。
旅人の身分で荷物も限られとるんで、シングル盤をナッシュビルで目にしたレーベルやアーティストを中心に5枚、LPはハンク・スノウのやつを1枚だけ買った。それでも十分スーパー満足。
気づけばもう15時半、駐車場に戻っていざジョージアへ420kmほどの復路をそそくさ帰る。
もはや使い慣れたスマホのGoogleマップとレンタカーの同期、ただし途中で何か事故があったらしく40分の渋滞発生とのアナウンス。フリーウェイをいったん離れてGoogleが提案してきた迂回路を行くとそこは山道だった。アップダウンある道路をアメリカで初体験できたのは良かったかもしれんが、ほんまにこっちのが近かったんか?
友人宅へ戻ってきたのは20時半くらいになってしまった。遅くなっちゃたんで、もともと友達が提案してくれとった彼のよく行く韓国料理屋での晩飯は残念ながら実現ならず、今まで通りのパターンで家のリビングで夕食をいただく。けど落ち着くからおれはこれも好きや。もう不思議と家着いたときちょっと懐かしく感じたもん。
音楽の話をしながらまたまたビールをもらう。彼ん家にあったの全部飲んだんちゃうか。アトランタにこの冬ジンジャー・ルートっていうアーティストが来るで、みたいな話をしたんやっけ。先月フジロックで観たとき楽しかったから、おすすめ的に。あと、メンフィスで適当に買ったシングル盤を1枚友達にあげることにした。せっかくもらったこれを再生したいっていう理由付けがあればレコードプレーヤーも買いやすいでしょ、って。
スーツケースを軽くしたいもんで、シングル盤のみならず彼が日常的に使えそうなものは、宿泊代がてらいろいろ置いてっちゃうことにする。何かをあげるたびに「じゃあお返しに…」っていろいろおれが持って帰るお土産を提案してきてくれた。嬉しいけど、それやと意味が無いんだよ。
そうして荷造りの大半を済ませてから就寝。明日友人は在宅で会議に出てから出社するみたいなので、おれも朝9時くらいまで家にいさせてもらうことにする。
今日も疲れたなぁ。そういえば昨夜コンタクト着けたまま気絶して寝てもうたからか右目の血管が破れちゃってさ、実は今日は一日じゅう片目真っ赤で過ごしとった。日本ではこんなことなかったから、やっぱりこっちは乾燥しとるんやろうなぁ。
明日の夜にはもう飛行機に乗っとるはず。
ジョージア最後の一日も、行きたいところがまだある。
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