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ジョージア、アラバマ、テネシー漫遊記② 「9月12日(火)」

  • 執筆者の写真: bunkeiedison
    bunkeiedison
  • 2024年2月17日
  • 読了時間: 14分

更新日:2024年2月18日


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 朝8時前に東京へ向けて家を出る。スーツケースは事前に羽田空港まで配達してもらうことにしたので荷物はリュック1つだけ、軽め。見かけはそこまで電車で通勤するときと大差ない。仕事は先週にラスト出勤を済ませたので、もうそんな通勤も無いんやけども。

 いくら電車嫌いで夜行バス好きのおれとはいえ、さすがに今回の上京は快適さを取って新幹線をチョイスした。新大阪から品川まで、そんで乗り換えて羽田まで。飛行機の出発は18時。めちゃんこ早めに着くけども、まぁいろいろ手続きもあることやし、時間が余ったら余ったで空港でゆっくりすればいいじゃんか。


 羽田に着いてまずやったのは、予約済みのポケットWi-Fiの受け取り。そんでおれより一足先に空港に来ていたスーツケースの回収。この中にはジョージアで厄介になる友達への日本土産がたくさん、ほぼ半分のスペースを取って入っとる。スーツケースから機内に持ち込む荷物をリュックに詰め替えたあと、両替してドル札を少々手に入れる。支払いはほとんどカードで済ませたいところやけどね。10年前に留学に行った頃と比べるとレートはえらく変わっとる。今日を迎えるまでにいろんな人からこの円安の時期にようアメリカなんて行くなぁ、て言われてきたな。なんで物価ごときがあこがれの土地に行くおれの足かせになると思われるのか、正直わからんのでとりあえず困り顔で作り笑いしとったが。

 案の定まだ時間は早いけども、手続き系は全部つぶしてからゆっくりしようと思い、デルタ航空の出発ロビーでチェックインを済ませる。仕事柄ここ数年、チェックインの機械に手こずる旅客たちをたくさん尻目に見てきたけど、いざ自分がその立場になるとけっきょく焦っとるやないか。なんか適当にしてたら発券されたから、まぁ大丈夫なんやろう。

 その流れのまま、スーツケースの預け入れも自分で機械で手続きする感じ。前にいるお客の手続きを後ろからカンニングして待つ。外国の人やったけど、この時間帯じゃあおれと同じ便よりもっと早い飛行機なんやろうな。やや急ぎ足やしね。おれの番になったんで見よう見まねで機械の画面をタッチしてると、スーツケースに付けるタグが印刷された。意外とすんなり出たやん、と思いつつ預け入れ完了。リヴァプール行った以来5年ぶりの手続き、怖かったけどなんとかなったぜ。あの頃はおれの心もぎりぎり元気なタイミングやって良かったよな。今のおれはいろいろを経験して、意外と気弱なとこが残っとんのよ。こういう非日常に放り出されるとそれを実感する。その脆いところも楽しめるようになったから、別に何の支障も無いけどね。

 検査場は比較的スムーズにクリア。仕事でもわりと日常的に通ってたし、慣れたもんよ。これで搭乗までのもろもろは済んで、もう一安心。おれの持っとるカードでも使えるラウンジに行ってみる。長旅になるしここいらでシャワーも浴びときたかったんよ。ラウンジで離陸まで余った時間過ごすなんて、ええ身分よな。思えばこの旅行も、決して恵まれたとは言えない条件ながら先の会社で働いてきた結果実現できたわけで、羽を伸ばせるときは伸ばしゃいいのだ。しかしそう思いながら着いたラウンジは狭かった。想定より短時間でそこを後にして、ふつうにフードコートで飯食った。

 免税店にて普段手を出さない高級ピースを1カートンお買い上げ、機嫌よく搭乗口付近へ。デルタ航空は自分のフライト情報を見れるアプリがあるんやけど、おれの座席は幸いにも隣が空席のまま。羽田→アトランタ間の直通便は所要12時間40分。ついにまたアメリカへ行けるって状況に相まって、この幸運もおれをルンルンな気分にさせた。いざ搭乗っていうめっちゃ直前に転職先の人事の人から電話来たのは慌てたけどな。乗る前でよかったけど、邪魔すな。


 フライトの間はとくに何もなく快適に。ジョージアの友達はデルタは機内食がイマイチと言うてたけど、おれは不満なくモグモグ食べて、寝て、寝て、寝て。どこでも一瞬でいくらでも寝れるのはおれの持ってる唯一利便性のある特技かもしれない。映画も本気で観たくなるような初見ものは観ず、子守唄代わりにおなじみのやつを。ただ、事前に電子書籍に落としといたアメリカの運転ルールの本は合間合間に読んでたよ。この時点でまだ予習ゼロに近かったから。飛行機に難なく乗れた以上、往路で残る不安はレンタカーを借りていざ運転するまでのフェーズくらいやもんな。そう、「この時点では」そんなふうに思ってましたよ、エコノミーの席でスヤスヤ眠りながら。


 無事にアトランタ空港に到着。時差もあって、アメリカに着いた時刻は同じ日付の18時台、結果的に日本を発った時刻からほとんど経過してないことになる。久しぶりの不思議な感覚。

 飛行機がスポットに入るまでに待機時間があったために、機外へ降りるのがわりと遅れる。乗り継ぎ予定の客の中には降り際に「デルタさん、長々と飛行機の中にいさせてくれてありがとう、おかげで次の飛行機に遅れたよ」なんて嫌味をCAさんに言っとる奴もいた。慣れたもんで、それを軽々受け流すお姉さん。

 家路に急ぐ人もアメリカにビビる人も、歩くスピードのバラッバラな人の流れに、おれも埋もれながら入国審査まで進んでいく。アジア人の群れは審査カウンターの直前で母語ごとに仕分けされていく。ベトナム人の家族が誰一人英語を話せず、仕分け担当のスタッフがベトナム語を話せる旅客がいるか呼びかけてる。おれはその力になれんまま日本人向けのカウンターに流されていき、怖い顔した審査スタッフに怯えながら通過していく。

 預け荷物の受取り場でも人それぞれの性格って出るよなぁ。スーツケースがベルトコンベアに出てくるその真ん前に陣取る人もいれば、人の群がってない下流のほうで待つ人もいる。おれは普段はどっちかというと後者のほうやが、レンタカーの予約時間が想定より迫っとるためにのんびりもしてられない。ややそわそわ気分で、目印にステッカーを1枚貼っといた自分のスーツケースとの再会を待つ。


 …出てこない。無いじゃないか。いつまで経っても。もうベルトコンベアの上流も下流も旅客はいなくなっちゃった。サポートカウンター的な場所にも誰も立ってない。仕方なくその辺のスタッフのおっちゃんに声をかけてみる。ちなみにアトランタ空港のスタッフさんは多くが黒人やったなぁ。話しかけても初めは「ちゃんと正しいコンベアで探したか?そのうち出てくんじゃねえの」的なあしらい方をされそうやったけど、ポッケに突っ込んでたスーツケースタグの控えを見せたらパソコンで検索してくれた。そこでまさかの返答、「君の荷物、なんか今デトロイト空港にあるっぽいよ」。「…エッ?ほ、ほなどうしたらいいんすかね?」「ここじゃどうにもならんね。受取り場の外に荷物の問い合わせセンターあるから、もうさっさと出てってそこで聞いてみて!」。

 空港で働いた経験上、このバゲージクレームという区域を出たら二度と逆戻りは出来ない怖さをよく知っとるので怖気づいたものの、そうも言っとられん事態。おっちゃんスタッフの言葉を信じていざ身一つのまま、何の壁もないアトランタの地へ。6年ぶり3度目のアメリカ、けどとにかく目指すは案内されたセンターやから、何の感傷もねえよ。


 問い合わせセンターの中では、すでにおれと同様困り果てた先客が喋っている様子。プライバシーや個人情報のこともあるんか、部屋に入れるのは今のお客さんの話が済んでから。そこらへんはちゃんとしてんのね。ちょっと待ったらおれの番になり、黒人のおばちゃんスタッフとご対面。なぁ、さっきからなんでみんな初めは素っ気ない対応をしてくるんだ。

 無理もないか、やっぱり立派なストレンジャーやもんな、長旅に疲れ切ったこんな日本人なんて。思えばさ、親切だとか言われる我々日本人やって、いきなり外国人に声かけられたときは大概の人がこんな反応しとるやろ。けっきょく相手のことがよくわからんから怖いんだ。だから冷たくなっちゃうし、よそ者サイドもその雰囲気を察しちゃうんやろうな。

 対話を試みる。「すいません、羽田からここに着いたけど、飛行機に預けたスーツケースが無くなったんです。受取り場のスタッフにこれ(タグ控え)を見せたらデトロイトにあるって言われちゃって」「それ見せて。ていうかあんた名前は?パスポートも出してよ。…あー、あのねぇ、まずこの控えに載ってる名字が君の名前じゃないのよ。ほんとに自分の荷物なんでしょうね?」

 ここでやっと気づいた。確かにおれのだいじに握りしめてきたタグ控えには、おれのファーストネームが書いてない。旅行久しぶりすぎてあんま不自然に感じなかった。…というか、代わりに載ってた名前が馴染みのない外国人ネーム過ぎて、人の名前やってことすら気づいてなかったよ!何かの追跡コードなんかなぁ?くらいにしか考えんかった。マヌケ過ぎるよ、お前。

 …あ〜、そっか。羽田のチェックインロビーの、あのときの違和感か。


外国の人やったけど、この時間帯じゃあおれと同じ便よりもっと早い飛行機なんやろうな。やや急ぎ足やしね。おれの番になったんで見よう見まねで機械の画面をタッチしてると、スーツケースに付けるタグが印刷された。意外とすんなり出たやん、と思いつつ預け入れ完了。

 あれさ、前に並んでたこの名前の読めない先客(デトロイト行き)が、自前のスーツケースは実際1個だけなところを、焦っとったかなんかで2個め用のタグも追加で発行したんちゃうかな。てめえの荷物のタグは1枚で事足りるから、1枚めが出た時点で急いどるもんでそそくさとおれに機械を譲ったんや。そんでこのマヌケ(アトランタ行き)が機械の操作中に出てきた先客のタグを、自分のもんやと勘違いして取り付けたと。どうりでなんだかタグ出てくんの早いなぁって思たわ!テクノロジーのなせるわざじゃなかったのね。思えばあの機械わかりにくいよな。確か、何も特別な設定せんくても預入れ荷物1個分のタグはハナから準備されとって、その次に「追加の」タグは何個要りますか?っていう画面が出たんよ。あんなん無意識に自分の預け荷物の総数入れたくなるで。おれも初めそこに「1」って入れててやり直したもん。

 というわけで思い当たる節があったので、それを慌てふためくにつれ拙くなっていく英語で説明して、引き続きおばちゃんとやり取り。「…じゃあとにかくこのタグはあんたの荷物に間違って付いてるってことね。スーツケースの色は?メーカーは?中身は?」「色は黒で、メーカーは…せや、(チェックイン直前の荷物入れ替えのときに撮った写真をスマホで見せて)これですわ、中身はほら、こんな感じでジャパニーズなお土産がいっぱいですねん。実はこれからジョージアに住んどる友達に会うつもりで、あっそいつも日本人なんすけど、…」「はいはい、わかったわかった。スーツケースは今もデトロイト空港のバゲージクレームに置き去りになってるから、君の言う情報と一致してるなら回収してこのアトランタ空港に送ってあげてもいいけど。旅行期間中はその友達の家にずっといるんでしょ?」「いや、友達の家にはこれからレンタカーで向かうけど、ひとまず今晩だけ泊めてもらって、明日の朝からひとりでメンフィス行きますねん。友達も朝早く仕事に出かけちゃうんで」「ふーん。じゃあ明日以降はずっとメンフィスにいるってこと?」「いえ、週末なったらまたジョージアに戻ってきまっせ。友達も土日は相手してくれるんで」「…そしたら土曜日以降は帰国の日までジョージアにいるのね?」「いやいや、月曜なったらまたひとりで今度はナッシュビル行きますねん。友達も仕事出かけちゃうんで」「いいかげんにしてよ、なんでそんなウロチョロすんのよ!」…それが男の旅ってもんやろ、お嬢ちゃん?

 どうやらおばちゃんはデトロイトから引き戻したスーツケースをおれの滞在先に届ける手続きを試みてくれてるらしい。やのに、宿の定まらない返答ばっかりするこのマヌケに閉口している。ここらへんから、隣のカウンターにいた白人おじちゃん係員も身を乗り出してきて、スタッフさんの対応がだんだん親身になってきた。人間やっぱり、困っとる姿を思いっきりさらけ出したほうが相手も手をさしのべやすくなるんやろうな。特におれみたいな人見知りは絶対、初対面の相手には声の小さいふにゃふにゃ野郎に映っとるから、余計にこのストレートに物言う文化圏ではそのままじゃ刺さらないんよ。余裕の大人ぶったりしないでさ、困ったら素直に困っとけば良いんだよ。脆さを楽しめ、とはまさにこのことじゃないか。

 「わかった。明日デトロイトからメンフィス行きの飛行機が一便出るの。それにあなたのスーツケースも載せてもらうように伝えるから、うまくいけば明日じゅう、ダメだったら明後日になるかもしれないけど、とにかくあなたがメンフィスにいる期間中に、宿泊先のホテルにスーツケースを配達できるよう手配するから、OK?…はい、これが今新しく発行した正真正銘、君のスーツケースのタグの控えね。これをデルタのアプリで読み込んだら荷物の現在位置がわかるから…あーあー、今すぐ読み込んでもまだ出ないから!まったく…で、メンフィスやナッシュビルは何しに行くの?」「ありがとです。えっと、ぼくはもともと古い時代の音楽が大好きで、エルヴィスとかソウルミュージックとかカントリーとか…とにかくそういうのを、全部見に来ました」。するとおっちゃんスタッフが横から「ああ、それならいい旅になるよ」ってさ。

 もう話は済んだから早くレンタカー棟行っといで、と送り出されて建物の外へ、シャトルバスを待ちながら久しぶりの一服。辺りはどっぷり暗くって、レンタカーの時間はけっこう過ぎて、荷物はリュックひとつだけ、体はド疲弊。けど気分は開き直ったかのように晴れとった。始まったなぁ。LINEではおれの到着を家で待つ友達が、このハプニングを憐れんでくれている。笑えるよなぁ。


 バスとスカイトレインを乗り継いでレンタカー棟へ。ここも受付は黒人のお姉さん、けども初手から気さくな対応。まぁさっきまでの旅客サポート窓口と違って、レンタカーのカウンターは手を焼かせる困り切った子羊は少ないやろうしな。「ハァ~イ、ベイビー」なんて和やか。今のおれには軽くナメられてたとしてもその笑顔が嬉しすぎるんだよ。

 おおかた事前予約の時点で詳細まで決めとったんで手続き上で特につまずくことはなく、書類一式を持たされていざ旅の相棒と駐車場でご対面、と思いきや「君の車はこのクラスなので、ここらへんに停まってる何台かから好きなの選んじゃってね〜」、とのこと。ポケモンの一匹目みたいなシステムやな。長考する時間も無いので赤くて良く目立つヒュンダイのやつに乗り込む。キーが車内のどこに置いてあんのかわからずしばらくあたふた。おい、これ以上恥をかくな。


 左ハンドルの運転席に座ってみる。ナビは事前オプションで付けられなかったんやけど、なんかスマホと連携できそうなモニターがあるなぁ。まぁ連携がめんどくさそうでも最悪のことも考えてスマホホルダーも持参しとるから大丈夫か、…いや、そのホルダーもスーツケースの中なんだよなぁ。

 もう22時やんけ。慣れないナビ連携を今からいちいち試みるのも面倒、明日も仕事がある友達を夜遅くまで待たしてる、そんでいち早くこの駐車場を抜け出してひとりきりの状況になりたい。もろもろの事情からスマホはナビ画面開いたままドリンクホルダーに放り込んでとにもかくにも出発進行。飛行機の中で観たブルースブラザーズにもこういう場面あったよな、ブルースモービルでぶっ飛ばす前に2人が今置かれてる状況を確認するやつ。そういえばおれニューオーリンズ行ったときも往路の機内でブルースブラザーズ観たわ。ルーティーンやね。


 空港から本線に乗るまででやや手こずったけど、フリーウェイに乗ってしまえばもう友達の家まで進むだけ。不慣れやから一番右の車線で落ち着きながら走ろうと思うも、油断してると走ってる車線が丸ごと枝分かれしてフリーウェイから降ろそうとしてくるのでビビる。日本の高速とは作りがちょっとちゃうよな、たいてい我が国では本線降りるための線は一番左の車線から分離する形で新しく出てくるやん。こっちのは違うのよ、まず車線が5本も6本もアホみたいに用意されとるから、1本くらいどうでもええわの精神で一番右端の車線がそのまま出口車線になってバナナの皮みたいに本線から剥がれていくのよ。アメリカという広大な土地がそんな豪快な道路事情を実現させてるのかしら。左ハンドルや右側通行ももちろん新鮮やったけど、ファーストインプレッションはそこやったな。夜のアメリカの高速道路、バカでかいトラックやらいつ整備したかわからんボロ車やらにあんぐりしながら走る。疲れてたのに目は冴えまくってたわ。


 走ること60km、時間にして1時間くらいで友達の家へ到着。会社で借りとるという立派な立派な戸建て。久しぶりの再会やけどお土産も何にもないんよ。ビールを1本もらい、改めて状況説明しながら自分でも冷静に今の所持品を振り返る。

 といっても機内持ち込みのリュックだけやから、基本財布やパスポート系の書類、レンタルWiFiとかバッテリーとかの機器くらいのもんですよ。けどコンタクトやメガネがあるのは今後を考えるとデカい。あとは高級ピースだけ1カートンもあるのが面白すぎる。着替え?そんなもんパンツ1枚すら無ぇよ。

 ひとまず寝間着として友達の服を借りて寝て、明日メンフィス行きの道中で服の調達をすることに決めた。空港のスタッフさんを信じて、メンフィスのホテルでスーツケースと再会できることを願う。友達には16日の土曜には日本のお土産とともにメンフィスからこの家に帰ってくると誓って、貸してくれた部屋で就寝。一瞬で爆睡。


 40時間弱の長い1日が終わった。翌朝は7時前には出発する予定。



 



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