ジョージア、アラバマ、テネシー漫遊記① 「プロローグ」
- bunkeiedison
- 2024年1月20日
- 読了時間: 5分

子どもの頃、近所のジャスコやミドリ電化やマイカルやらで大売り出しをやる日には、でっかい透明なドーム状の容れ物の中で荒ぶる気流に乗って飛び回る三角形の紙クジを手づかみする仕組みの抽選機が置いてあった気がする。何か特別に大当たりしたような経験は無いけども、あの機械の存在そのものがじゅうぶん、キッズの目をワクワクさせるもんやった。
おれにとって音楽とは結局、でっかいひとつのエアー抽選機のようなものだ。その容れ物の中にはありとあらゆるジャンルの曲やミュージシャンが飛び回ってて、おれがそこに手を突っ込んで探ることさえやめなければ、つかみ取る順番に差はあってもいつかは必ずそれぞれ耳にすることができるんやと思う。
本物の抽選機と違う点といえば、音楽にはハズレクジなんか決して入ってないことと、音楽の場合は中に入ってるクジの数に決して終わりや限りがないことくらいや。
おれはもう、中学生になった頃からかれこれずっと、ずーっと、この途方もなくバカでかい抽選機に手を突っ込み続けてきた。初めてつかんだクジはパンクロックやった。その大当たりに良い気になって引いてるうちに、ロックンロールもブルースもスカもソウルもファンクもカントリーも出てきた。もちろんこれまでにつかんだ中には未だにイマイチ魅力が分かっとらん音楽もあるけど、それらの良さを知るヒントは今後引き当てるクジに眠っとるかもしれない。やから、この音楽というクジ引きをおれはやめられない。
そういう考えで言えば、おれが去年9月に訪ねたアメリカの土地が生んだ音楽たちも、自分が音楽を聴き続ける限りはその過程で遅かれ早かれ、いずれ必ず出会ってたもんやと思う。けど、それらをおれが去年の9月までに引き当てたからこそ今回の旅ができたわけで、この旅自体がまたおれが去年9月以降、次に抽選機の中からつかみ取った音楽への渡し船になっとるかもしれないわけで。
何が言いたいかというと、音楽を知るのに一般的に正しい順番はあるわけがないけど、おれ個人が音楽を知っていくのに絶対的に正しい順番は、たぶんこれやったんやなって最近は思うんよ。
初めてクジを引いた瞬間から今にいたるまで片時も抽選機に突っ込んだ腕を抜かなかったおれをほめてあげたいよ。
というわけで、当時からだいぶ時間が経ってしもたけど、2023年9月12日から23日にかけてアメリカのジョージア州とテネシー州とアラバマ州(とほんの少しミシシッピ州も)を旅行した思い出を、これからしばらくかけて、ちょっとずつ書いていこうと考えとる。
実際の具体的な旅行記は次回からにするとして、そもそもなぜ去年のあの時期に、なぜジョージア州やったのかっていう発端のところは、今回書いておこうかな。
まず、去年の9月いっぱいでおれはそれまで勤めとった仕事を辞めることにしてたんで、ひと月近く休みの期間が出来たんよ。それまでの数年間も国内のひとり旅は何度もしとったけど、まとまった長期の休暇を取ってなかったこともあり、ましてああいうご時世やったこともあり、海外旅行は2017年のニューオーリンズや2018年のリヴァプール以来とんと行けてなかった。パスポートも期限切れたのに気づいてなかった。そのまま10月に入ればまた新しい仕事で簡単に長い休みなんぞ取りづらくなる身に変わることやし、今この機を逃す手はないってことで旅に踏み切った。
行き先は特に迷った末に決めたってわけではなく、旅することを決めた時点で足の先はジョージアへ向かっとった。どういうわけかというと、高校の頃の友達が仕事の都合でここ数年ジョージア州に赴任しとるっていうのがあって。彼が現地へ向かう前には赴任開始の時期がどうこう…みたいな話を、コロナが広がる直前のおれの家でした記憶もある。そのとき酒飲みながら彼に「そのうち遊びに行くわ」と伝えてはいたものの、その後みなさんご存知の情勢になったがために、約束を果たせてなかったんよ。
そういう背景があって、去年の夏が始まる頃やったか、9月にはやっと遊びに行けそうやとその友達に久びさ連絡をとってみたら、ちょうど奥さんだけ一時帰国するタイミングとかぶっとるのでお家の一室を使えるとの返事が来た。平日は彼も仕事に出かけるということやったので、旅行中は入国・出国の日と週末をジョージアの友達宅にご厄介になり、それ以外の日は自分で借りた車で好きなように周辺の土地をめぐる、という大まかなプランが出来上がった。
そうして去年の夏はパスポートを再発行したり生まれて初めて国際免許を作ったりレンタカーや飛行機の予約を進めたりしながら過ごし、それに並行して「さてさてジョージアの周辺は何があるんやったかな?」と、友達宅から車で行ける距離にある地域をグーグルマップで眺めてたんよ。もちろん、行き先を考える基準はおれの好きな音楽やった。おれにとってそれはどんな方位磁針よりも正しくて、もう本当たちまちに目的地は決まったよ。
ジョージア州アトランタから西に400マイルくらい走ったところに、テネシー州のメンフィスがある。エルヴィスのグレイスランドがあり、サン・スタジオがあり、ビール・ストリートがあり、スタックス・レコードがある土地。
メンフィスへ向かう道中にはアラバマ州のマッスル・ショールズがある。フェイム・スタジオやマッスル・ショールズ・サウンド・スタジオがある土地。
アトランタから見れば北西の方角、距離はメンフィスより近いところに、テネシー州ナッシュビルもある。カントリー・ミュージック殿堂博物館、RCAスタジオ、ライマン公会堂がある土地。
マップで見つけられるひとつひとつが、おれがでっかい抽選機からつかみ取ってきた中でもとびきり大当たりの音楽に縁やゆかりのある場所じゃあないか。
そうこうしとると、あっという間に9月になっとった。あまり行き先のことを考え過ぎるとのぼせそうになるから、頭の中にもスーツケースの中にも余裕を持たせ、最小限の着替えと最大限の日本のおみやげを手に、おれはその月の12日、友達に会いに、そんであこがれの音楽に会いに行く旅に出発した。
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