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  • 執筆者の写真bunkeiedison

何をノイズキャンセリングすることがあんねん





同梱のヘッドホンにはマイクが内蔵されています。
このマイクが周囲の騒音を拾い、逆位相の音を出力することで、騒音を聞こえにくくします。
飛行機、電車やバスなど、主に乗り物内での騒音を減らし、小さな音量でも音楽を楽しめます。

(SONY ポータブルオーディオプレーヤー ウォークマン「ノイズキャンセリングとは」)

 何ひとつ疑うことなく、手放しでその偉大さや尊さを讃えられるような対象があるということは、行動ひとつひとつに合理的な根拠を探しがちな、嵐のような毎日からの隠れ場所になり得る。そんなふうな対象を持つことは、すごく安心することやと思う。

 日常生活で胸糞悪いことが起きても、理性では解決できないようなやり場のない感情が芽生えても、どんな日の終わりにだって自分の胸の中にはシェルターがあり、そこでは外の世界で降りしきるやりきれないゴタゴタの積もる音すらも聞こえない。

 そうして安らいだところで次の朝が来ればまた覚悟を決めて、シェルターの扉を開けて、やかましい騒音だらけの日常に戻る。


 これに近しいことを引っくるめて「信仰」とおれが呼ぶとすれば、この国にだってわりと人それぞれに信仰心はある。その対象物がさまざまなだけで。


 ある人にとっては、可愛い奥さんや子どもがそうかもしれない。飼ってる犬や猫でもうさぎでも良い。もちろんストレートに仏様や神様でも。長渕でも永ちゃんでも良い。Vtuberに恋しちゃっても、忠誠を誓っちゃっても良いよ。

 生き物じゃなくても構わんしな。思想や主義にどっぷり浸かったり。映画作品やアニメのシリーズ作品に人生の真理が詰まってると豪語する奴もいる。好きな音楽にならいくら貧乏したって金を献げてしまうような人間も身近に知っとる。

 これらのどのタイプも、「家に帰ったらこれがある」「何が起きてもこれがそばにいる」っていう、あくまで暮らしの中での安心感に使うぶんには、おれにとっては等しく信仰心に思えるよ。


 ただし悲しいかな、この絶対的な安心安全の拠り所に、昼も夜もずっと閉じこもって出てこなくなる、または出てこれなくなる奴がたまにいる。それをおれは「狂信者」と呼ぶ。


 もう文字通り、目に見えて閉じこもっちゃうような狂信は分かりやすいわな。具体的に行動範囲が自分の家やその拠り所の位置する地点だけになっちゃってるとか。

 一方タチの悪いタイプは、シェルターをまるでパーカーのフードみたいに着こなして、自分の心の壁の中にいるまま街を闊歩してるような人。他人様の前でも自分の隠れ場所から顔を出さないような奴にとっては、そのシェルターはもはや「日常という嵐からの隠れ場所」じゃなくなってる。公共の場所で丸見えの隠れ場所なんて、もはや隠れ場所じゃないよ。

 

 このタイプの狂信者はもはや世間のノイズを積極的にキャンセリングする術を持ってるんよな。だから嫌や。

 自分のプライベート空間でのシェルターの役割っていうのはどこか受動的なノイズの消音であるのに対して、外界でその壁を脱がない奴っていうのは、自分とは違う信仰の対象を持つ人々から出るノイズを、自ずから逆位相のノイズを出して打ち消しにかかって来んのよ。そうすることで、外にいても自分の殻から出てこずして、自分の信ずる対象の放つ威光を浴びれるっていうわけ。

 

 それだけはやめて欲しいよな。面倒なことに、こういう手合いの人らは一度味を占めちゃうと、周りのノイズに対する逆位相を出力するのがみるみる上手くなっていく。自分じゃそれを意識しなくなるくらい。

 要するに、そんな便利な機能に慣れられてしまったら、もうその狂信者を閉じこもったシェルターから引っぱり出す声も聞こえなくなってしまうから厄介なのよ。まだバカみたいな騒音合戦になって「引っ越せ引っ越せ」叫ぶほうが健全よ。

 例えばさ、イヤホン着けてる奴がさ、いくらこっちが大声で呼んでも返事しなかったらどうするよ。もうあとは再生しとる側のウォークマンなりスマホなりをブチ切るか、あるいは操作方法もパスワードも分からんくて停止できない場合はぶっ壊すか…。


 身の回りのノイズなんか、どんどん聴いていこうじゃないか。どうせ家に帰ったら自分なりに最高の音響で、最高の隠れ場所で、誰にも邪魔されずに楽しめるやんけ。


 それに、世間に溢れる人の生活音っていうのは案外ノイズばかりじゃないよ。そもそもあなたが耳にする周囲の音の持ち主は、発した音が聞こえるほど近くにいる以上、何なら自分と同類の生活水準で暮らしとるわけで。そういう日常にこそフォークソングは鳴ってるかもしれないよ。いっそのこと、そういう歌を聴き取れる耳を育てていこう。


 何をノイズキャンセリングすることがあんねん。




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