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ハードボイルドであれ、という話

執筆者の写真: bunkeiedison
bunkeiedison
2020年4月12日
読了時間: 5分

更新日:2020年8月1日




人生は楽しく、クールで、セクシーでなければならない。



間違いなくおれの座右の銘のひとつに数えられる、ある詩人の言葉である。


自分の人生、自分が楽しい、カッコいい、エロいと思えるように生きなきゃ意味がない。

男の背中を押すハードボイルドな名言やね。


…もしかしたら詩人じゃなかったかもしれない。

世間が忘れても、おれは一生忘れんからな、あのフレーズ。



。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。



おれは煙草が好きや。

正確に言うと、煙草を吸う仕草が好きや。


臆面も無く言ったる。

これはおれの好きな昔の小説、映画、音楽からの影響と、それらへのあこがれからや。

かつての文豪が、俳優が、ブルースマンが、ロックスターが煙草に火をつけて吸う写真や映像や描写を心底カッコいいと思っとるからや。

それに倣って一服してる自分の様がイカしてると、自分で思いこんどるからや。


「今時ダサいで」と言う声もある。

念押しで言うけど、「自分が」カッコいいと思ってるんや。

君らの審美眼の話をしてるんちゃうねん。


「将来どんどん高なるで」「どんどん吸うとこ無くなるで」とも聞く。

これももっかい言うと、「昔の」文芸人たちにあこがれとるんや。

未来の状況をおれに説いたところで、過去の彼らはおれの記憶からいなくなるんか?


おれ自身が自分の煙草を吸う様にカッコよさを感じなくなったとき、おれは煙草に火をつけるのをやめる。

電車で吸えなかろうが、路上で吸えなかろうが、居酒屋やライブハウスで吸えなかろうが、それでもどこかに吸える場所があるなら、あこがれたカッコいい仕草をすることをおれはやめない。

見限るときはおれ自身が見限る。


煙草が完全に自宅に限った嗜好品になっても構わない。

おれのカッコいいところがまたひとつ、世間に見せれなくなるだけや。

優れたミュージシャンさえ自由に気ままには路上で演奏できないご時世になったのと同じようなことや。

残念やったね、ファンのみなさん。おらんけど。


またこれは、ローリングストーンズがバンドをやめないのと一緒や。

キースが今まで何十万回弾いてきたギターリフをミスるようになっても、ミックの動きがますますキモくなっても、オアシスあたりに「ジジイになっても往年のヒット曲をやるのは見苦しい」とか言われても彼らがバンドマンでありつづけるのは、ひとえに自分たちがバンドをやってるときの自分こそが今でもいちばんカッコいいと思っとるからや。

そんなストーンズにあこがれてアルバム発表やライブツアーを待ち続けてるおれらみたいなイかれた音楽ファンが世界中におる、っていうのは、あくまでストーンズ自身にとっては副次的な理由に過ぎない。

それで良い。

あくまで第一は自分たちの意欲と美学に従ってロックンロールを続けて欲しい。

お客様至上主義みたいなバンドやったら、おれはこんなにストーンズに惹かれてない。



自分があこがれたものや好きなものを追い続けるも捨てるも、それを楽しむ自分がクールかセクシーかで常に決めなければならない。

その理由を自分以外の状況や事情のせいにするのは至ってダサい。

いつまでもハードボイルドであれよ。



喫煙者の肩身が狭くなった、と聞く。

嫌煙志向に目の敵にされ、時代遅れと言われ、文字通り煙たがられクサがられ、禁煙する人も目立つ。

それを「愛煙家」には風当たりが強い、と書く奴がいる。


いや、それは違う。

世論の流れに仲間内だけでピーピー言いながら開き直ってマナー違反の吸い方をする奴も、自分が煙草をやめたとたん煙を毛嫌いする奴も、そいつらは全員ハナから「愛煙家」じゃなかったんや。

ただの煙草を吸う人、ただの喫煙者に過ぎん。


「ロック好きが少なくなった」っていう表現と同じニオイがする。

ロックが今より栄えてた頃やって、芯からロックに惚れ込んでた奴ばかりじゃなかったハズや。

昔聴いたレコードを売った、挫折したエレキギターを処分した、革ジャンを質に入れたような奴らも、そんな時代から今にいたるまでの過程の中にはいた。


それを好きな理由を、「『みんなが』楽しんでて、クールと言われてて、セクシーっぽいから」で過ごしてきた不純物が、時代の波と価値観のザルに揺さぶられてどんどん流れ消えただけなんや。

初めからハードボイルドに自分のあこがれを貫いた、ザルの中の砂金のような奴らの数は、そんなに昔と変わっとらんハズや。

愛煙家やロック好きは、ハナから減ってない。


何かを芯から好きと思える、カッコいいとあこがれる気持ちは、偽物のそれとは輝きが違う。

そんな純金が、軽々しくすり減ってたまるか。

元から同じ量なんじゃ。



愛煙家とロック好きにもうひとつ共通項があるとするなら、そいつらは多勢の不純物によってつけられたイメージのせいで、世間の心象が悪くなったように見えるとこや。

もっとも、本物の愛煙家やロック好きにしたって、ケッタイなもんに狂おしいほどあこがれてるようなイカれた無駄好きのロクデナシであることには違いないんやけど。



まとめると、中途半端にそれを好きなフリしてた奴らの、中途半端なカッコつけと、好きなものに対して自分の物差しでカッコいいと思い、セクシーと信じて楽しんでる奴らのカッコよさは、根本的に違う、っていう話。



「こんなに無駄な煙」「こんなに無駄な音」、そう言われるのは当然のこと。

でもどんなに少数派であっても、それを好きでいつづけるのが自分でクールと思ってるような救いようのないアホには、そんな文句は聞こえない。


何度でも言うけど、そんなふうな、無駄なもんをいとおしいほど好きになれるタイプの奴らは、この無駄が削がれてゆく時代が進むにつれて、一層に希少価値が出てくるに決まってる。

相当のバカよ。絶滅危惧種相当の。



愛煙家も音楽好きも、ハードボイルドにあり続けたらいい。

最後までそれらを好きやった奴らは、遠い未来にきっと、今は想像つかないくらいに重宝がられてる。




最後までザルに残る金ほど、デカくて光るもんは無い。





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